こんにちは、なごや社会福祉士事務所の行成ひとみです。
2025年問題を知らない介護関係者は恐らくほとんどいないでしょう。
人口のボリュームが最も多い団塊の世代が後期高齢者になる年、それが2025年です。
医療や介護の需要はどんどん増えていますが、2025年以降の20年くらいにそのピークがやってくる。
それまでに必要な医療や介護を必要な人に届けることができるのか、また国の財政は耐えることができるのか、というのが2025年問題のざっくりとした概要になります。
国は介護福祉士を増やしたり海外から人材を集めることで、介護人材の確保を見込んでいますが、2025年に至っていない現状でさえ、目標(必要人数)に対して現場で働く介護職は少ない状態。
国の施策によってハコ(特養等の施設)は増やしたものの、慢性的な人手不足の施設は多いのではないでしょうか。
2025年問題を具体的に見ていく
2025年に団塊の世代が後期高齢者になる、しかしその後は新たに後期高齢者になる人は減少していきます。
そのため、あまりにも多く介護施設を作りすぎてしまうと、その数十年後には利用者が確保できず倒産する事業者が出てくるかもしれません。そのため、団塊の世代だけを考えて特養(ハコ)を作りすぎるのは得策ではありません。
ただ、統計によると、後期高齢者のおよそ3割が要支援以上の介護状態になります。
団塊の世代は約800万人なので、ざっくりと計算するとこの内の240万人がなんらかの事情で介護を必要とするようになるわけです。
現在の後期高齢者へのアンケートでは住み慣れた自宅で介護を受けたい人が男性は42.2%、女性は30.2%と一番多い割合ですが、これが50代~70代の「これから介護を受ける世代」に対して行ったアンケートの結果では、特養などの高齢者専用施設で介護を受けたい人の割合が、自宅で介護を受けたい人を上回る結果になっています。
「本心としては自宅で最期を迎えたいが、家族に負担はかけたくない」という思いの方が増えており、若いほどその傾向がみられるようです。
ただ、前述のように特養は一定以上増やすことはできません。
現実には施設に申し込むものの待機となり、自宅で介護を受けざるを得ない方が多くなるでしょう。実際に、現状でも特養の空き待ちで有料老人ホームに入所していたり、自宅で介護を受けている方は多くいらっしゃいます。
在宅介護のニーズ
特養への入所を希望しても入れない、その結果有料老人ホームや自宅で訪問介護サービスを受けざるを得ない方が増えるでしょう。では、在宅介護サービスの事業者の現状はどうでしょうか。
まず訪問介護サービスです。
私の経験則ですが、介護保険のサービスを使いたい要支援・要介護高齢者の方のニーズは大きく分けて3種類あります。
- 買い物や家事の代行(訪問介護)
- リハビリ(通所介護・通所リハ・訪問リハ)
- 入浴(通所介護・通所リハ・訪問入浴)
この中でも訪問介護は需要が高いにもかかわらず事業者・人手が足りておらず、通所系の施設は需要に応えられるだけの数があると感じています。
訪問介護事業者の課題
なぜ訪問介護で人手不足が起きているのか、理由としては
- 介護の有資格者でないとできない
- サービス時間以外は介護報酬が発生しない
- 施設介護よりも給与が低い
などが考えられます。
介護保険の制度上やむを得ない理由なので、事業所として出来ることは今いる人材が離職しないように福利厚生の充実や無料のスキルアップ研修を開く、子どもがいる主婦や定年退職後の主婦が働きやすい環境を整えるなどでしょう。
働きやすい職場であれば、多少給料が低くても人材は定着しますし、介護士や主婦の横のつながりから、自然に新たな人材獲得にも至りやすくなります。
また、介護保険外のサービス展開をすることで収入を増やし、給与水準を引き上げている訪問介護事業所もあります。
例えば、通常通院の付き添いは病院の入り口までしかできませんが、自費サービスとして病院の中の介助も請け負うなどです。
通所介護事業者の可能性
訪問介護の需要が高いにもかかわらず、事業者や人手が少ない。
であれば、この状況を商機とできるのが通所介護事業者だと私は考えています。
通所介護を利用する目的は「入浴」「日中活動(見守り)」が多いと思いますが、例えばここに「買い物」をプラスして訪問介護の代替プランとするのはどうでしょうか。
実際に、「買い物レク」を日中活動に取り入れている通所介護事業所がありますが、車いすでも連れて行ってもらえる、送迎車でスーパーまで行き自分の目で商品を選べる、何かあっても介護者がいるから安心など、特に女性利用者に好評のようでした。
既存の「介護」や「介護保険」にとらわれない多角的な視点で見てみると、事業者の数が多く利用者の取り合いになりがちな通所介護事業所にも、いろいろな可能性が生まれてくると思います。
施設介護ができること
施設介護、特に特養と老健は介護保険上の施設なので人員配置がシビアな世界です。そのため、人材確保に力を入れていることと思います。
ただ、介護保険施設はすでに利用者が飽和状態なので、2025年以降の介護需要増加の影響はそれほど現場には響かないでしょう。
とはいえ人材不足は否めません。現状でも6割強の施設が「人手不足が問題」としています。
私がTwitterで観測したところ、
- 介護資格取得のハードルが高い(時間・自己負担金)
- サービス残業の常態化(毎日の業務や夏祭りなどの行事)
- 人間関係の悩み(多様な人材が集まり「すぎる」)
などが、施設介護の現場で働く介護者の悩み・愚痴として目立つように思います。
無資格・未経験でも何でもいいから受け入れる、という体制の施設もあるとは思いますが、その後のフォローアップが重要となりそうです。特に、今後も介護を続けていきたいという志のある職員が、例えば実務者研修にかかる負担を重いと感じているのであれば、施設が一部でもその負担を請け負う姿勢を示すなどの手当てがあると有効でしょう。
職種ごとの役割を意識することも重要です。
厚生労働省は介護福祉士取得者に、介護現場のリーダー的立ち位置を期待していますが、実態としては初任者研修のみの人材と介護福祉士を持つ人材が全く同じ現場業務にあたっています。雑務も含めたあらゆる業務を有資格者が担っている状況では、「何のための国家資格なんだろう」となっても仕方ありません。
個人的な見聞ですが、有資格者が行う業務と無資格者でもできる業務を分けて分担する体制は、現場の介護職から歓迎されるようです。
例えば、シーツ交換や居室清掃を専門とするパート労働者を入れる、入浴介助の補助を専門とする初任者研修程度のパート労働者を入れるなどです。
誰にでもできる雑務を専門の職員に渡すことで、介護福祉士は利用者のQOL向上についてより注力することができるでしょうし、何よりタスクが減ることで業務の負担感が減ります。
こうした「雑務専門職員」の存在は有資格者が就職先施設を探すにあたって魅力的に映ります。実際に、介護福祉士を持つ私が見ると、しっかり業務分担がされている施設なのだなと評価できるのです。そのため、人材獲得競争に一歩抜きんでることができるでしょう。
慢性的な人材不足は内部から変える
いくら人材が欲しいからといって外見だけいい施設ですよと見繕っても、人材は定着しなければ意味がありません。
サービス残業など労働法上の問題点があるのであれば、管理者は労働状態を適切に管理し、必要に応じて超過勤務手当を出すのは当然ですし、残業が常態化しているフロアやユニットでは現場の状況を直接確認して原因を探る努力も必要です。
人間関係が原因にある場合、パッと見では問題が見えにくいかもしれませんが、匿名のアンケート調査で職場の満足度を探ったり、退職者を多く出しているユニットやフロアの職員と面談の時間を取るなどの対処を取るべきでしょう。
いずれもマネジメント次第です。慢性的な人材不足に陥っている施設では、適切な労務・人事マネジメントができていない可能性があります。
また、前述したような「実務者研修」受講者への手当てなど、福利厚生面の充実も効果はあるでしょう。
介護福祉士養成校出身者は、養成校時代の横のつながりがあります。自分のいる施設が良い施設だと感じていれば、同窓生の入職につながる可能性もあります。
いずれにしても介護業界を支えているのはひとりひとりの「人」ですから、「人」を大事にする施設であろうとすれば、自然とついてくるものもあるでしょう。
2025年問題が終わったら
2025年問題が落ち着いたころには、介護需要は徐々に縮小していき、いずれは介護施設でも「利用者争奪戦」が起こる可能性があります。
その時に「選ばれる施設」になるためには、人材が育っていること、人数が充足していること、利用者のニーズに応えてことなどが求められるでしょう。
更に言えば、自施設がどのような介護をしているのかを具体的にアピールしなければいけません。広報戦略も重要になるということです。これは、利用者に限らず、職員確保にもつながる課題です。
施設のホームページはある。ブログも書いている。けれど誰に向かって何を書けば効果的な「広報」になるのかを伝えないまま、現場の職員にブログを任せている事業所も多いのではないでしょうか。
魅力的な施設にすることと同時に、その魅力を適切に広報できなければ、人材や利用者に恵まれる施設になるのは難しいでしょう。