生活福祉資金は救世主となるのか

こんにちは、なごや社会福祉士事務所の行成です。

生活福祉資金の特例貸付が3/25から始まりました。

生活福祉資金の特例貸付が本日から開始ー状況次第で10〜80万円がもらえる償還免除もありー

ヤフーニュースなどですでにご覧になった方もいらっしゃると思います。

今回は「元生活福祉資金相談員」として、この制度について解説します。

生活福祉資金とは

低所得世帯(一部貸付金では障害者世帯、高齢者世帯)に対し、一時的な生活困窮等で生活ができない世帯が申し込むことができる貸付金です。

手続は、各市区町村の社会福祉協議会に行き、必要書類を提出することで審査に出すことができます。

生活福祉資金等の貸付には、以下の種類があります。

  • 福祉資金(転居費、障害者用の車購入費、災害時臨時費、住宅改修費、療養費など)
  • 緊急小口資金(これまで生計を維持できていたが一時的に困窮している場合の生活費)
  • 教育資金(高校、専門学校、大学などへの進学・就学に必要な資金)
  • 総合支援資金(生計維持者の失業等により一時的に困窮する場合の生活費)旧離職者支援資金
  • 不動産担保型生活資金(土地を担保に借りる生活資金)

いずれにしても、一部をのぞき基本的には低所得者が貸付の対象であり、「社協または民生委員からの支援を受ける」という前提で貸し出されます。

 

新型コロナによる特例貸付

今回、厚生労働省及び首相官邸が打ち出したのは「特例貸付」です。

元々の枠組みにあった

  • 緊急小口資金
  • 総合支援資金

この2つの資金の貸付を従来よりも拡充するというものです。

具体的には、以下のようになります。

特徴として、小さく書いてありますが、「償還時においてなお所得の減少が続く住民税非課税世帯の償還を免除することができる」とあります。

では、「住民税非課税世帯」がどの程度の所得かを見ていきます。

償還免除対象となる住民税非課税世帯とは

どの程度の年収の方が住民税非課税になるのでしょうか。名古屋市の場合を見てみましょう。

  • 生活保護受給世帯
  • 障害者、未成年者、寡婦または寡夫で、前年中の合計所得金額(注1)が125万円以下の方
  • 扶養家族(注2)がなく、前年中の合計所得金額が35万円以下の方
  • 扶養家族があり、前年中の合計所得金額が次の金額以下の方
    35万円×(扶養家族の数+1)+21万円

これだけではわかりにくいので、目安となる収入額を一覧にしてみます。

住民税非課税収入

いかがですか。

実際には所得税や社会保険料などが加味されるので、この収入額よりは多い金額になりますが、それでも生活していくには全く足りないですよね。

この水準の収入しかない方については、償還免除(つまり、返済不要)ができます、という話ですが、実際にはほとんど当てはまる人はいないと言えます。つまり、全額返済する必要があります。

ちなみに、名古屋市の20歳~40歳の単身世帯の生活保護費は、月額11.4万円ほどなので、生活保護の方と同等~低い水準ということになります。

審査時に削られる項目

総合支援資金では、単身世帯で15万円、複数世帯で20万円以内の金額を原則3ヶ月間借りられるとありますが、実際には返済能力や最低生活費を考慮して次のような審査が行われます。

  • 住宅ローンやカーローンなど、借金の返済に充てられるお金の貸付は不可
  • 純粋な生活費に充てられるお金以外は不可(車検が迫っていても車検代は出ません)
  • 家計簿や過去の収支を確認の上、生活できる最低限の金額しか貸付不可

例えば食費の中に「外食費」が入っている場合、「借金をしてまで必要な外食なんですか」となり、これまで外食に使われていた分の食費は対象外となります。

持ち家で住宅ローンを払っている方は、住宅ローン分の貸付は受けられないので他の方法で何とかするしかありません。

また、これらはすべて「一時的な困窮」であることが要件なので、貸付の相談以前から自転車操業状態の方は返済能力がないものとして貸付対象となりません。

決して簡単に借りられるわけではありません

「(償還免除が可能な)実質的な給付なので困っている方は社協へ相談を」と、冒頭のニュース記事を根拠に借金を勧める方がいますが、実際には「実質的な給付」になる人は非常に限られていることがわかります。

そして、お金を貸す制度である以上審査がありますし、返済能力も見られます。

借りられたはいいものの、貸付決定が下りたのは生活するには足りない金額だった、ということも十分考えられます。

その上で、ほとんどの方は返済をしなければいけません。何度でも書きますが、これは借金であって給付ではありません。

元々、社協の生活福祉資金貸付制度は生活保護を受けるよりも難しいと言われている、非常に使い勝手の悪い制度です。

安易に借金をするのではなく、最初から生活保護を一時的に利用する方がいいケースも多くあります。

(私が生活福祉資金を担当していた時、総合支援資金を借りた後結局生活保護を受給することになったというケースを何度も見てきました。)

そういった事を十分考慮したうえで、今回の特例貸付の検討をしてみてください。